メンバー全員が兵役を終え、グループとしての新章へ世界中から熱い視線が注がれるBTS。彼らの輝かしい軌跡を語る上で、今なお音楽史に残る象徴的な転換点として語り継がれているのが、2022年4月に開催された第64回グラミー賞です。
メガヒット曲『Butter』を引っ提げ、2年連続のノミネートを果たした授賞式の現場で、一体何が起きていたのか。世界を釘付けにした圧巻のステージ、全米を揺るがした名シーンの裏側、そして「なぜ受賞に至らなかったのか」という音楽業界の深層まで、当時の熱気と証言をもとに紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:『Butter』で最優秀ポップデュオ/グループ・パフォーマンス賞にノミネートされたが、ドージャ・キャット&SZAに敗れ受賞は逃した。
- 要点2:負傷や隔離を乗り越えた「スパイ演出」の圧巻ステージとV・オリヴィアの共演は、授賞式最大のハイライトとして米メディアから絶賛された。
- 要点3:商業的成功とは裏腹に、保守的なレコーディング・アカデミーの投票体質やジャンルの壁が落選の決定打となったと分析されている。
【第64回グラミー賞】BTSの受賞結果と「最優秀ポップデュオ」の行方
2022年4月3日(現地時間)、米ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで開催された第64回グラミー賞。BTSは、世界中を席巻した大ヒットシングル『Butter』で最優秀ポップデュオ/グループ・パフォーマンス賞にノミネートされていました。前年の『Dynamite』に続く2年連続の快挙であり、アジアのポップグループとしてグラミーの頂点に立つ瞬間を誰もが待ち望んでいました。
しかし、栄冠を手にしたのはドージャ・キャット feat. SZAの『Kiss Me More』でした。受賞者の名前が読み上げられた瞬間、会場に一瞬の静寂と驚きが走ったことは、当時の生中継を見ていた視聴者にとっても記憶に新しいところです。BTSの歴史的快挙はお預けとなりましたが、彼らは客席から立ち上がり、勝者に心からの拍手を送る紳士的な姿を見せました。
BTSのグラミー賞歴代ノミネートを振り返ると、第63回の『Dynamite』、第64回の『Butter』、そして翌年の第65回(『My Universe』や最優秀ミュージック・ビデオ賞など)と、3年連続でその名を刻んでいます。受賞を逃したとはいえ、保守的とされる米音楽界の頂点において、英語圏以外の出自であるグループがこれほど連続して主要部門の候補であり続けた事実は、ポピュラー音楽史における偉業そのものです。
全米を震撼させた『Butter』の圧巻パフォーマンスと過酷な舞台裏
トロフィーの行方以上に世界に強烈なインパクトを与えたのが、授賞式序盤に披露された『Butter』のスペシャルパフォーマンスでした。映画『007』や『ミッション:インポッシブル』を想起させるシークレットエージェント風のコンセプトで登場した7人は、観客席のセレブリティを巻き込みながら会場全体を縦横無尽にジャックしました。
天井からワイヤーで舞い降りるジョングク、暗号カードを操るメンバーたち、そしてレーザー光線を軽やかに潜り抜けるフォーメーション。終盤、スーツのジャケットを一斉に脱ぎ捨て、それを楽器に見立てて繋ぐ超絶技巧のダンスブレイクは、会場にいたビリー・アイリッシュら錚々たるトップアーティストたちを立ち上がらせ、割れんばかりのスタンディングオベーションを引き起こしました。米音楽誌『ローリング・ストーン』は、この日の全ステージの中で「最高のパフォーマンス」第1位にBTSを選出しています。
しかし、この完璧なステージの裏側は、極めて過酷なトラブルの連続でした。本番直前にジンが左手人差し指の腱を損傷して手術を受け、激しいダンスの制限を余儀なくされていました。さらに、J-HOPEとジョングクが相次いで新型コロナウイルスに感染。全員が揃ってリハーサルを行えたのは、授賞式の前日、わずか1日だけだったのです。ジンがコントロールルームのオペレーター役として演出に自然に組み込まれ、後半のクライマックスで見事に合流した構成は、逆境を芸術へと昇華させた奇跡的なチームワークの賜物でした。
V(テテ)とオリヴィア・ロドリゴの耳打ち演出|世界を騒がせた仕掛けの真相
この日のステージで、世界中のSNSトレンドを独占したのが、客席に座る米歌姫オリヴィア・ロドリゴの隣にV(テテ)が腰掛け、甘い表情で耳打ちをしたオープニングシーンでした。Vが何かを囁いた後、彼女が息を呑むような驚きの表情を浮かべ、そこからVが空中に投げたトランプカードをステージ上のジョングクがキャッチするという流れるような演出です。
一夜にして無数のミーム(ネット上のパロディ)を生んだこの場面について、後にV本人がファンコミュニティプラットフォームなどで舞台裏を明かしています。世界中が「テテは何を囁いたのか?」と固唾をのんでいましたが、実際には緊迫した生放送の現場で「英語を話す余裕はなく、何か意味のある言葉を囁いたわけではなかった」と告白。「オリヴィアさんは素晴らしいプロで、表情だけで最高のリアクションを作ってくれた」と相手を称賛しました。
言葉の壁や事前の準備時間の少なさをものともせず、わずか数秒のアイコンタクトと演技力で全米の視聴者を完全に魅了したこのシーンは、BTSが単なるパフォーマーにとどまらず、世界最高峰のエンターテイナーであることを決定づけた瞬間となりました。
なぜBTSは受賞を逃したのか?アカデミー投票に見る決定的な理由
Billboard Hot 100で通算10週の1位を獲得し、2021年から2022年にかけて世界で最も売れた楽曲の一つであった『Butter』。これほどの商業的メガヒットを記録しながら、なぜ最優秀ポップデュオ/グループ・パフォーマンス賞を受賞できなかったのでしょうか。その背景には、グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーの構造的要因が存在します。
第一に、グラミー賞はセールスやストリーミング再生数などの「数字」を競う場ではなく、アカデミー会員(アーティスト、プロデューサー、エンジニアなどの業界関係者)の投票によって決まる点です。歴史的にアカデミーの投票層は白人層や年配の業界関係者が多く、ボーイバンドやアイドルカルチャー、そしてK-POPという枠組みに対して強い偏見や保守的な姿勢が根強く残っていました。
第二に、競合となったドージャ・キャット&SZAの『Kiss Me More』が、米国のラジオエアプレイにおいて圧倒的なロングヒットを記録し、批評家筋からも極めて高い音楽的評価を得ていたことです。米国の業界関係者にとっては、ストリーミングや熱狂的なファンダムによって押し上げられた楽曲よりも、自国のラジオやクラブシーンで自然浸透した楽曲を支持する傾向が強く働きました。
さらに、米メディアの間では「グラミー賞側が授賞式の視聴率や話題性を維持するためにBTSを利用し、目玉としてノミネートしつつも受賞はさせないのではないか」という批判的な論調(いわゆる“BTSの視聴率利用”問題)が少なからず巻き起こりました。巨大なファンダムを持つ世界的アイコンでありながら、伝統的なアメリカ音楽界のインナーサークルからは依然として「部外者」として扱われていた現実が、落選の背景にあったと言わざるを得ません。
ネットの反応とメンバーの本音|授賞式直後に見せたリアル
結果発表直後、世界中のソーシャルメディアは紛糾しました。「#OurProudBTS」などのハッシュタグが世界トレンドを埋め尽くし、授賞式の審査基準に対するファンの抗議と、彼らの圧巻のステージに対する賞賛の声が入り混じりました。欧米の音楽メディアからも「グラミーはまたしても歴史を作る機会を逃した」「BTSにはグラミーが必要ないが、グラミーにはBTSが必要だった」という辛口なレビューが相次ぎました。
そうした喧騒の中、授賞式終了からわずか数時間後、メンバーたちは宿泊先のホテルからライブ配信(V LIVE)を実施し、全世界のファンに向けて率直な胸の内を語りました。彼らは決して取り繕うことなく、悔しさを露わにしました。
ジミンは「悲しいというより、悔しいという気持ちが大きかった。自分たちの力不足も感じたし、応援してくれたARMYの皆さんに申し訳ない気持ちがあった」と素直な心情を吐露。一方、リーダーのRMは「悔しいのは事実だけど、自分たちが見せられる最高のパフォーマンスをやり切ったことに誇りを持っている。今日はすっきり寝られると思う」と語り、チームを鼓舞しました。シュガも「悲しむ必要はない。僕たちがやったステージは誰にも真似できないものだった」と堂々とした態度を示しました。
その直後に行われたラスベガスでの単独スタジアム公演で、メンバーは「僕たちはグラミー賞のために走ってきたわけじゃない。ファンと音楽を共有するためにここにいる」と力強く宣言。トロフィーの有無など関係なく、彼らがどこを向いて音楽を届けているのかをファンに再確認させる機会となりました。
【2022年グラミー賞のBTS】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:BTSは第64回グラミー賞でどの賞にノミネートされ、結果はどうでしたか?
A1:大ヒット曲『Butter』で「最優秀ポップデュオ/グループ・パフォーマンス賞」にノミネートされました。受賞したのはドージャ・キャット feat. SZAの『Kiss Me More』であり、BTSは惜しくも受賞を逃しました。
Q2:V(テテ)がオリヴィア・ロドリゴに耳打ちしたシーンでは、実際に何を話していたのですか?
A2:演出上の寸劇であり、実際には特別な会話は交わされていません。V本人が後日、「生放送で英語を話す余裕はなく、何かを言ったわけではない。オリヴィアさんの素晴らしい表情作りに助けられた」と裏側を明かしています。
Q3:授賞式でメンバーのジンが一部別行動をとっていたのはなぜですか?
A3:授賞式の約2週間前に左手人差し指の腱を痛めて手術を受けており、激しいダンスを控える必要があったためです。演出では指令室のオペレーターという役回りを与えられ、クライマックスでダンスに合流する見事な構成で乗り切りました。
まとめ:グラミーの枠を超えて世界を動かしたBTSの到達点
第64回グラミー賞は、BTSにとってトロフィーという目に見える栄誉こそ逃したものの、彼らの存在がすでに既存の賞レースの評価基準を超越していることを世界中に証明したステージでした。
怪我や隔離といった極限のプレッシャーの中で見せた『Butter』の完成度は、単なるK-POPの枠組みを完全に壊し、21世紀のポップカルチャー史に深く刻まれています。評価機関が敷いた古い境界線を鮮やかに飛び越えて見せたあの夜の挑戦は、メンバー全員が復帰した現在のBTSにとっても、揺るぎない誇りと原動力であり続けています。 (出典: グラミー賞 bts 2022(Yahoo!ニュース))