トライ ストーン 社長という重責を小栗旬が引き受けてから、日本の芸能界を取り巻く力学は音を立てて変わり始めた。看板俳優が自ら経営のトップに立つ。かつて誰も踏み込めなかった領域への挑戦は、単なる話題作りでは終わらない。撮影現場の理不尽な拘束時間に疑問をぶつけ、クリエイターの権利保障を訴え続けてきた若き日の問題意識が、いま組織を動かす巨大な推進力へと昇華している。
華やかなスポットライトの裏側で進む組織再編において、映画界のトップランナーでありトライ ストーン 社長でもある彼の手腕には、業界内外から強烈な視線が注がれる。演じる側と経営する側。相矛盾する二つの顔を持ち合わせる彼だからこそ、既存の慣習を鮮やかに打ち崩し、新しい生態系を立ち上げられるのだ。
敏腕創業者から託された新体制の裏側と世界進出の極秘戦略
創業者の山本又一朗が築き上げた城を、次世代のリーダーへ譲り渡す決断は、一朝一夕に下されたものではない。小栗が十代の頃から二人三脚で歩んできた敏腕プロデューサーの山本は、早くから彼の中に「単なる演者」を超えたプロデューサー気質を見出していた。事務所を去る俳優が後を絶たない現代の芸能界において、創業者の意志を継ぎながらも、旧来の家族主義的経営から近代的なグローバル企業へと舵を切る作業は、極めて高度な綱渡りだった。
舞台裏で進められてきたのは、2026年を見据えた海外市場への直接アクセス網の構築だ。日本国内のパイを奪い合う消耗戦から脱却し、アジアや北米の制作会社と対等に出資・共同制作を行う座組みが水面下で練り上げられてきた。小栗自身がハリウッドの現場で直面した言語の壁、契約の厳密さ、そして日本人俳優が置かれた厳しい現実。その痛烈な体験こそが、若手を世界へ送り出すための教育インフラ投資や、海外エージェントとの直接提携という極秘戦略の原動力になっている。
綾野剛と田中圭が支える強固な結束力と現場主義
トップが変われば組織は揺らぐ。そんな業界の定説を鮮やかに裏切ったのが、株式会社トライストーン・エンタテイメントの屋台骨を支える綾野剛と田中圭の存在だった。彼らは小栗と同世代であり、泥水をすするような下積み時代から苦楽を共にしてきた盟友だ。
小栗が経営トップに就く際、周囲の動揺を静めたのは彼らの揺るぎない覚悟だった。綾野は作品作りの純度を極限まで高めることで現場を牽引し、田中は圧倒的な稼働力と親しみやすさで事務所の基盤を固める。社長が理想論を掲げても、現場が疲弊しては崩壊する。そうならないよう、同世代の看板俳優たちが率先して「プレイングマネージャー」の盾となり、若手俳優たちと経営陣のパイプ役を務めている。この泥臭い現場主義と結束力こそが、新体制最大の強みだ。
『クローズZERO』の熱気から『鎌倉殿の13人』の座長経験へ
小栗のリーダーシップの原点は、2000年代後半の映画『クローズZERO』にまで遡る。同年代のギラついた役者陣を束ね、現場の熱気でスクリーンを焼き尽くしたあの撮影で、彼は「全員が主役になれる現場」の手応えを掴んだ。その後、数々の映画・テレビドラマで座長を歴任。その集大成となったのが、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』だった。
北条義時という複雑な主人公を1年以上演じ切る傍ら、彼はスタッフを含めた数百人の大所帯を常に気にかけ、誰一人取り残さない環境作りに奔走した。裏方の疲弊やギャランティの不均衡を肌で知るからこそ、現在の経営方針には徹底した現場目線が宿る。役者のメンタルケア体制の整備や、休養期間の義務化など、過去の苦い経験がそのまま改革の指針となっている。
日本映画製作者連盟との協調と旧態依然とした芸能界の打破
これまで日本の芸能プロダクションは、製作委員会や映画会社に対して受け身の立場を取ることが多かった。しかし、新体制となったトライストーンは、日本映画製作者連盟をはじめとする業界団体との対話を恐れない。それどころか、労働環境のガイドライン策定や契約関係の透明化に向け、積極的に提言を重ねている。
「俳優は事務所の所有物ではない」。この至極当たり前でありながらタブー視されてきた命題に、小栗は真正面から切り込んだ。専属契約のあり方を見直し、個々のクリエイティビティを最大限に尊重する仕組みを整える。既得権益にしがみつく旧態依然としたシステムに風穴を開ける作業は、時に業界内の摩擦を生むが、時代の要請は明らかに小栗のビジョンを支持している。
Netflix連携で加速する映像ビジネスの地殻変動
地上波テレビの広告収入が頭打ちとなる中、事務所の成長エンジンとなっているのがNetflixをはじめとする巨大配信プラットフォームとの直接連携だ。中間搾取を排し、制作予算を現場にダイレクトに還元するモデルを確立しつつある。
配信プラットフォームが求めるのは、日本国内のローカルな話題性ではなく、世界基準の映像美と普遍的なストーリーテリングだ。トライストーンは自社で企画開発を主導し、海外の一流クリエイターを招聘する体制を構築。演者をただキャスティングしてもらう時代は終わった。自らコンテンツを創り出し、IP(知的財産)の権利を確保する側に回ることで、莫大な利益と国際的なプレゼンスを同時に手に入れている。
俳優が率いる芸能プロダクションが切り拓く日本エンタメの針路
スーツを着たビジネスマンではなく、台本を読み込み、カメラの前で汗を流す現役の表現者が率いる芸能プロダクション。その挑戦が日本のエンターテインメント界に与えたインパクトは計り知れない。俳優が表現の自由と正当な対価を守るために自ら経営を学ぶ姿は、次世代のクリエイターたちに強烈な希望を与えている。
リスクを恐れて前例踏襲を続けるか、それとも痛みを伴う構造改革に打って出るか。トライストーンが選んだ後者の道は、日本のエンタメが世界で生き残るための唯一の処方箋だったのかもしれない。カルチャーとビジネスを高い次元で融合させる小栗の航海は、まだ始まったばかりだ。 (出典: トライ ストーン 社長(Yahoo!ニュース))